佐賀の古民家から世界で戦えるweb3エンジニアを育成、「ソリディティハウス」とは?(落合渉悟)

ブロックチェーンエンジニアから、突然 佐賀県に呼ばれて……

2016年よりイーサリアムの高速化に関わる研究と開発を行い、今年DAO(自律分散型組織)型自治プロトコル「Alga(アルガ)」を発表、さらにDAOの可能性を説いた書籍『僕たちはメタ国家で暮らすことに決めた』を上梓した、落合渉悟氏。

エンジニアとしてだけでなく、思想家として、研究者としてマルチに活躍する彼から、ある日「佐賀に遊びに来てください」と編集部に連絡が入った。聞くと、佐賀で古民家を改築し「ソリディティハウス(Solidity House)」なる新たなプロジェクトを開始しているという。

編集部は早速、佐賀県の古民家「ソリディティハウス」に向かい、その全貌を取材した。

佐賀県某所、田んぼが一望できる高台に「ソリディティハウス」はあった

 

web3エンジニアがはじめた「ソリディティハウス」とは?

–落合さんが初めた「ソリディティハウス」とは、どんなプロジェクトですか?

イーサリアムのスマートコントラクト開発言語であるソリディティ(Solidity )の学べるスクールプロジェクトです。佐賀県で古民家を教室に改築し、そこでブロックチェーンエンジニアになるための教育プログラムを提供しています。

プログラムの期間は5ヶ月間、平日毎日生徒には古民家の教室に通っていただき、みっちりと集中してソリディティを学んでいただいています。実は昨年からすでに生徒を受け入れていまして、初回のシーズンは終わり、現在は2シーズン目の生徒4人が通ってくれています。

おかげさまで受講した卒業生から好評いただいてまして、今後サミーさんと共同事業として「ソリディティハウス」事業を拡大し、次のシーズンの生徒も募集を開始しています。

古民家内の会議室で取材を受ける 落合渉悟 氏

–「ソリディティハウス」の教育プログラムの特徴は何ですか?

ブロックチェーンエンジニアである僕自身が課題作成やレクチャーをしますので、極めて実践的であり、仕事に使えるスキルが学べるのが特徴の一つです。また授業で使う課題の作成には、今世界のweb3領域の一線で活躍する、僕の知り合いのエンジニアらにもサポートしてもらっています。本番の仕事さながらに、コードを書いたり直したりできる課題で学べるのも特徴です。

また生徒の学習をサポートするチューターも当然ソリディティの書けるエンジニアで、チューターが手厚く生徒の学習をサポートとする仕組みになってます。

そして5ヶ月間、田舎でみんなで共同生活のように学ぶ場を提供しているのも特徴ですね。実際には住み込みという形ではなく、今の段階では生徒さんに近くに部屋を賃貸して毎日教室に通っていただいてますが、自然豊かな環境は学びに集中でき、ノイズが少なく、ピアラーニングに最適な環境が整っています。

「ソリディティハウス」の外観

web3企業のニューズに応えられるエンジニアを育成

–「ソリディティハウス」で学ぶと、どのようなアプリケーションが開発ができるようになりますか?

例えばNFTガチャや、OpenSeaのようなNFTマーケットプレイス、分散型取引所(DEX)や自動マーケットメーカー(AMM)などが作れるようになります。またアップグレーダビリティ、つまりデプロイしたプログラムにアップデートしていけるスキルも身につけられます。現在のweb3領域の企業の一般的なニーズに、一通り応えられるエンジニアになっていただけると思います。

–かなり高度なことができるようになる印象です。ちなみに文系の方や、ノンプログラマーの方でもそこまで学べるのでしょうか?

はい。これまでの生徒さんも約8割は、ノンプログラマーの方でした。もちろんすでに何らかの言語のプログラマーであれば、より短い時間で習得いただけますが、そうで無い方でも5ヶ月いただければちゃんとしたソリディティエンジニアに育てる自信があります。

–これまでのシーズンでどのような企業の方が受講されていますか?

主に上場企業の新規事業部の方や、コンサルやシステム開発企業の方などに受講いただいてます。ちなみに前述の通り「ソリディティハウス」はサミーさんと共同事業なのですが、その事業担当者の方は、実はファーストシーズンの生徒さんだった方です。

ちなみにそのサミーの方も、新規事業関連の部署でこれまでプログラムなんかしたことがなかったのですが、今ではスマートコントラクトを書けるようになっています。

学習スペースで課題を行う生徒たち

–生徒によって、もしくは生徒を送り出す企業によって求めるニーズにも差があると思います、その辺りは対応しているんでしょうか?

初めに打ち合わせをしてそれぞれの生徒の方の目指すゴールをヒアリングします。そして個々のゴールにあったスキルを身につけられる教材、課題を用意します。

これまでの生徒の中には、新規開発系がゴールの方もいましたし、スマートコントラクト監査がゴールの方もいました。例えば監査がゴールの生徒には「バグが潜んだ実装を提示して、それに対してバグをしてきするテストコードを書け」というような問題を作って用意しました。

–具体的にどのような課題があるのか、問題を見せていただけますか?

例えば、以下のような課題を解いていただいています。

上記はFoundryというHardhatやTruffleと比較される新型の開発スイートによるテストコードで、ソリディティでテストコードを書くことになります。非常に巨大な数値を計算するプログラムを一定のガス代の中で書くことを要求した課題になってます。

上記は答案用紙とでもいいましょうか、虫食い状態になった「実装側のコントラクト」です。”FAIL”という結果の出る単体テストに対して自分で考えた実装を施して、”PASS”という正常なテストの通過を目指す、いわば本職のプログラマと同じように、単体テストを書くことを通してソリディティの経験値を上げていける課題例です。

今、ソリディティを学ぶメリットは?

–今ブロックチェーンエンジニアになる、ソリディティが書けるようになるメリットはなんでしょうか?

実際にweb3が世界的なトレンドになっている中で、企業やプロジェクト側のブロックチェーンエンジニアに対する需要は物凄く増えています。一方日本も含め世界でも、まだまだちゃんとソリディティを書けるエンジニアは少ない状況です。

実際、僕のところにも時々海外プロジェクトから、年収数千万レベルのジョブオファーがしばしば舞い込んできています。僕自身はやりたいことが他に沢山あるので、それらを断っていますが、明らかに需要と供給のバランスが取れていない状況を肌身で感じています。

またブロックチェーンの現在のトレンドを見ても、多くのチェーンがイーサリアムバーチャルマシン(EVM)互換になってきており、その点でも今後もソリディティという言語の需要がより高まることが予想できます。

そういった意味でも、国内はもちろん世界を相手にweb3の仕事を受けられるようになるメリットがあると思います。全然今から学んでも遅くないスキルですね。

生徒やゲストの写真が壁に

–とはいえ、5ヶ月というのは決して短くない時間です。それだけ時間をかけるべき理由はあるのでしょうか?

僕自身が独学だったので肌身で感じているのですが、ソリディティは、「書けない」と「ガツガツ書ける!」の差が大きい言語だと思ってます。離陸するのに時間がかかる、エンジニアとして一人で飛び立てるまでの滑走路が、一般的なプログラムに比べて長いんですよね。

例えばRubyやJavaは、国内でも簡単なスキルレベルでも仕事としての受けられる案件が多いので、仕事しながら学ぶということも可能です。一方web3領域は、まだまだライトに受注できる案件は少なく、仕事にできるまでが困難なんです。

そのため「ソリディティハウス」では、実践レベルの課題をいくつも生徒に解いていただく授業をしています。確かに5ヶ月は短くは無いですが、僕に5ヶ月もらえれば本当に仕事に使えるレベルまで持っていきます。だらだら自分だけでネットや本を読んで学ぶより、効率的な機会を提供できると自負しています。

–「ソリディティハウス」の授業料はおいくらでしょうか?

現在は主に企業向けに、1人1ヶ月100万円(+税)の授業料をいただいています。また今後は学生さんや個人として受講したいという方に向けた割引プランも検討していこうと考えてます。

また受講中の方にも、一定のスキルをつければ逆にこちらから問題作成のお仕事をご依頼して、その問題を買い取らせていただくことも実施しています。

次のシーズンの生徒は募集中ですが、ゲストハウスとして使っていただけるスペースもありますので、問題作成などの仕事をしたいというブロックチェーンエンジニアも歓迎しています。

–ちなみに落合さんは今年DAOアプリ「Alga(アルガ)」を発表しました。それも「ソリディティハウス」と連動していくのでしょうか?

実は佐賀で古民家を買って改築したのは、「ソリディティハウス」の教室のためでもありますが、先々はこの地域コミュニティで「Alga」を使ったDAOを実装する場にするという目的もあるんです。

そのため古民家の近くの畑や山を借りたり、新たな施設の準備など進めています。当面はそれらの新しい施設は生徒の宿泊施設にしたり、テントサウナや畑いじりなど生徒の学習のリフレッシュに活用できる場としても機能させるのですが。

「ソリディティハウス」の庭から続く山の一部も落合氏が借りて舗装中だ

でもそこを拠点に、畑作業を公共サービスと見立てて町内会費から支払うような実験もできますし、区道の劣化や山水の排水など自身が直面する公共財の必要性についてリーダーなしでアプリ経由で参政もできるので、それもまた新しい体験になると思ってるんですよね。

学びとDAOは親和性が高いと思っています。だからこれから卒業生も含めて、色々考えていきたいと思っています。

 

取材/編集:設楽悠介

Source: https://www.neweconomy.jp/posts/276042