BIS高官、CBDCは地政学的限界に直面と予測
国際決済銀行(BIS)の新しいイノベーション責任者が、「暗号資産(仮想通貨)市場が昨年の混乱で消滅したわけではない。一方中央銀行デジタル通貨(CBDC)の新しい波は、地政学的な限界に直面するだろう」と予測している。
世界の中央銀行と呼ばれるBISは、過去にビットコインをねずみ講やバブルになぞらえて、暗号資産に批判的な立場をとってきた。
昨年のサムバンクマンフリード(SBF)氏が率いていたFTXの崩壊、セルシウス(Celcius)、スリーアロウズキャピタル(Three Arrows Capital)、またそのほか多くのステーブルコインの破綻が影響して、2兆ドル以上の価値が暗号資産領域で消失した。
しかし2023年に入ってから、ビットコイン価格が40%回復するなど、市場は回復傾向にある。
BISのイノベーションハブ(Innovation Hub)の新しい責任者であるセシリア・スキングスレー(Cecilia Skingsley)氏は、就任後初の詳細なインタビューでロイターに対し「暗号資産業界はこれらの失敗から学び、新しいことを考え出すと思う」と答えた。
スウェーデンの元中央銀行総裁でもあったスキングスレー氏は「暗号資産に関連する問題は、今後数年のうちに中央銀行デジタル通貨(CBDC)を大量に発行するという中央銀行の計画には影響を与えていないだろう」と伝えている。
BISは世界の中央銀行の統括機関として、CBDCに関する国際的な実験の多くを調整してきた。CBDCは公共のために構築することも、銀行がホールセール金融市場の裏で使用するためだけに構築することも可能だ。
スキングスレー氏は「私が聞くところでは、中央銀行デジタル通貨のプロジェクトに関わる人たちは、それを推し進めているようだ」と伝えている。
すでに11カ国がCBDCを立ち上げ、さらに世界のGDPの95%以上を占める100カ国以上がCBDCを検討中で、今年はそれらがいくつかの重要なマイルストーンとなることも予想される。
例えば中国は、デジタル人民元の試験運用を14億人の人口のほとんどに拡大する予定だ。欧州中央銀行も本格的なテストにゴーサインを出すはずだ。
そして米国連邦準備制度理事会もいくつかのテストを実施しており、オーストラリア、英国、ブラジル、インド、韓国、ロシアも重要なステップを踏んでいる。
この世界的な動きは、現物の現金の使用が世界的に減少し、当局がビットコインやビッグ・テック企業からの資金調達力への脅威をかわそうとする中で生じている。
近年ロシアやベネズエラなどの国に課せられた制裁措置もそれらの国のCBDC促進の1つの原動力になっているようだ。またヨーロッパ諸国のような長年の米国同盟国にとっても、Visa、マスターカード(Mastercard)、スウィフト(Swift)のネットワークに代わるものを確保したいという考えが、そのもう一つの原動力となっているだろう。
スキングスレー氏は「防衛や食糧供給に関しても十分な弾力性が必要だが、決済システムに関しても重要だ」と言及している。
またスキングレー氏はCBDC推進に関して「どの国も自分たちの弾力性がどの程度か考える根拠は理解できる。ではどの国が、私たちの友人であり同盟国になれるのだろうか?」と発言している。
地政学的現実(GEOPOLITICAL REALITY)
スキングスレー氏は「CBDCは通貨をよりハイテクにし、他国への送金をより簡単かつ安価にするはずだが、地政学的に同盟を結んだ国々の間でしか完全に相互運用できない新しい形態の電子マネーは、地殻変動を起こす可能性がある」と伝えた。
また同氏は「CBDCは完全に国ごとに相互接続することはありえないだろう」と伝え、さらに「BISの仕事はCBDCをできるだけ多用途にすることを目指す」と付け加えた。
そしてスキングスレー氏は「摩擦が多すぎるし、世界のすべての国々同志が完全に協力する準備はできていない。それが現実だ」とも伝えた。
またスキングスレー氏は、すでにいくつかのCBDCの利用が少ないこと、そして今月イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー(Andrew Bailey)総裁が言ったような、CBDCは世の中の問題を探す解決策になるという懐疑論にも反応した。
ここにいくつか問題がある、と同氏は言う。「仮に多くの国での現在の現金の使用方法を推測すると、将来的に現金は支払い方法として使用されなくなるだろう」
さらにスキングスレー氏は「そうなると私たちが重要だと考えている公共政策の目的、つまり貨幣システムに対する信頼をどう維持するかという問題が出てくる」と話した。
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
(Reporting by Marc Jones, Editing by William Maclean)
images:Reuters
Source: https://www.neweconomy.jp/posts/294267