【取材】LayerX、プライバシーテック事業へ本格参入 | あたらしい経済

LayerXがプライバシーテック事業へ本格参入

LayerXが、個人情報保護とデータ利活用の両立を実現するプライバシー保護技術「アノニファイ(Anonify)」を用いた、パーソナルデータ活用ソリューションの正式提供を開始したことが6月21日に分かった。

プライバシーテック(Privacy Tech)事業に本格参入することで、これまでプライバシーの懸念からパーソナルデータ活用が進みづらかった金融や医療、行政等を始めとする様々な領域において、高度なデータ利活用やデータ流通の促進に向けた取り組みを加速していくとのことだ。

具体的にはプライバシー保護したデータを継続的・効率的に外部提供することが可能な「Anonify」を組み込んだデータ加工・抽出基盤を提供するという。

さらにプライバシー保護に加え、LayerXが創業以来蓄積してきたプロダクトデザイン及びデータサイエンス・機械学習のノウハウにより、データを活用したサービス・事業の立ち上げを支援するという。

LayerXはクラウド型経理DX支援システム事業「バクラク」とデジタル・アセットマネジメント事業の運営として「三井物産デジタル・アセットマネジメント」に経営参画している。なおLayerXは創業期から研究開発部門(旧LayerX Labs)を設置し、セキュリティ・プライバシー保護技術の研究開発や実証実験等の取り組みを進めてきていた。

「Anonify」は2020年3月にホワイトペーパー及びソースコードが公開された。そして「Anonify」はJCBとの次世代BtoB取引履歴インフラに関する共同研究や、リクルートとの「差分プライバシー」のテキスト分析の共同研究などを行なってきた。

なお「差分プライバシー」とは、あるデータセット内の個人情報を差し控えながら、その中のグループのパターンを記述することにより、データセットに関する情報を公に共有するための概念であり、2006年にDwork氏によって名付けられた。

このタイミングで、LayerXがプライバシーテック事業に本格参入した背景について「パーソナルデータを外部に提供する際、個人情報保護法等の法規制を遵守し、エンドユーザー・消費者が安心できるよう、プライバシーを保護する必要があります。しかし、現状はどのような方法を使えばプライバシーが保護できるのかやどれくらいの量や粒度のデータまで提供して良いのか等の客観的基準が定まっていない」と説明されている。

さらにそれがデータ流通や高度な利活用の推進において高いハードルになっているからとのことだ。またEUの一般データ保護規則(GDPR)違反により大手IT企業に巨額の制裁金が科されたり、直近米国でも、データブローカーによるスマートフォンの位置情報の売買が広く問題視されるなど、世界的にプライバシーに関する社会や消費者の関心が高まっているという。

そのような課題を解決するために「Anonify」の技術基盤が研究開発されてきたようだ。「Anonify」は世界中で進む先端的なプライバシー分野の学術研究を土台に、実務的なデータ利活用に応用できるようLayerXが独自に開発した様々なアルゴリズムから成るプライバシー保護技術だと発表されている。

具体的に「Anonify」は、米国の国勢調査やApple、Google等のグローバルIT企業により実用化が進み、プライバシー保護技術のスタンダードになっている「差分プライバシー」等の技術を用いて、柔軟な統計分析や高度な統計モデルおよび機械学習を実現することで、データロスを減少させ、リスクを低減させるとのことだ。

LayerX執行役員PrivacyTech事業責任者の中村龍矢氏は、次のようにコメントしている。

「『すべての経済活動を、デジタル化する。』というLayerXのミッションは、個社に閉じたデジタル化にとどまらず、会社・業界横断のデジタル化を目指しています。異なるユーザーや組織間のデータやシステムの連携を実現するためには、秘匿化、ブロックチェーン、暗号、分散システム等の要素技術が重要と考え、創業時からR&Dチームを立ち上げ、技術開発を行ってきました。また、社会実装に向けた最初の突破口を見つけるべく、様々な業界の企業様や自治体様と数百回を超えるディスカッションや、実証実験を積み重ねてきました。その結果、パーソナルデータの企業横断での利活用にフォーカスすることに決め、昨年から準備を進め、今回のAnonifyの正式提供に至りました。今後はさらに、プライバシー保護の具体的な考え方をより多くの人に広めたり、各種業界や社会全体のルールメイキングなどにも貢献したいと考えています」

LayerX執行役員PrivacyTech事業責任者の中村龍矢氏へ取材

「あたらしい経済」編集部は、LayerX執行役員PrivacyTech事業責任者の中村龍矢氏へ取材した。

−−データの公共性と秘匿性、事業者はどのようなバランスを持ち、考え行動すべきだとお考えでしょうか?

企業・消費者のプライバシー意識の高まりもあり、パーソナルデータの利活用において、公共性や、エンドユーザーのメリットを大事にしたり、それをしっかり伝えていこうという動きは高まっているように感じます。一方、そのデータ利用を進める上でのプライバシー保護のところは、現状は多くを説明しないのが一般的ではないかと感じています。

我々は、技術的にユーザーやステークホルダーに対して透明性を担保することで、信用のコストが減り、よりスムーズにデータ利活用の取り組みを進められると考えています。プライバシー保護技術により、プライバシーを客観的・定量的に説明することができます。多くの企業や行政機関にとって新しいことで、最初は大変そうに感じられると思いますが、Anonifyを通じてそのハードルを下げていきたいと思います。

−−サービスローンチ後の「Anonify」の構想について、教えていただけますでしょうか?

プライバシーテック事業は、LayerXのミッションである「すべての経済活動のデジタル化」に繋がっています。LayerXが以前ブロックチェーン事業をやっていた時から、個人情報を安全に共有したい、という声はよく聞いており、それが現在の事業に繋がっています。パーソナルデータの流通は、企業や組織を横断したデジタル化の一丁目一番地であると考えています。

引き続きR&D及び「Anonify」の開発を進めつつ、パートナー様との協業で、データを使った新しいサービスや事業をしっかり作っていきたいと思います。まずは社会でパーソナルデータの組織横断での利活用がもっと広がっていくことに期待していますし、事例を増やすことで、結果的にプライバシー保護に関する社会のルールメイキングなどにも貢献したいと考えています。

Source: https://www.neweconomy.jp/posts/236785