ENSコア開発者 井上真インタビュー(後編)
イーサリアムネームサービス(Ethereum Name Service/ENS)は、インターネットにおけるDNS(Domain Name Services)のような仕組みを、イーサリアムブロックチェーンで実現するサービスだ。ENSを利用することで、イーサアドレスやコントラクトアドレスを「○○.eth」のように人が理解できる文字に置き換えることが可能で、その仕組みにはNFTが活用されている。
またイーサリアムネームサービスは昨年ガバナンストークン「ENS」を発行し、DAO(自律分散型組織)化を進めている。後編となる今回はENSのコア開発者を務める井上真氏に、トークンの発行とDAO化の状況について語っていただいた。
(→前編はこちら Web2とWeb3を繋ぐ、イーサリアムネームサービスとは?)
ENSのトークンについて
–昨年ENSのトークン発行がありました。このトークンはどのように活用されていくのでしょうか?
トークン発行の目的は、ENS自身の運営をDAO(自律分散型組織)にするためです。ENSトークンはガバナンスへの投票の際に利用できます。
議案を提出するには10万トークン必要で、議案が通るには全トークンの1%の投票かつ過半数の賛成票が必要です。また他のDAOと異なりENSには「ENS憲法」が存在し、憲法の条項を修正するには2/3の賛成票が必要です。
トークンは昨年、これまでにENSの開発や普及に貢献してくれた100の個人・団体と、ENSネーム保持者の保持期間などの一定条件に応じてトークンをエアドロップしました。
選挙などの投票の場合、低投票率が問題になることが多いのですが、ENSガバナンスではDAOデリゲート(代表者)に投票を委任することができます。DAOデリゲートの選出とENS憲法へ合意するかのオフチェーン投票(実際にガス代を払ってオンチェーン投票するのではなくsnapshot.pageなどのツールを使って自分のイーサリアムアドレスで電子署名するもの)は、ユーザーへのトークン配布を行うことによって高いデリゲーション率を達成しています。
この制度によってENSに活発に関わる人たちは自分でトークンを購入せずとも他のユーザーからトークンをデリゲートしてもらうことでENSガバナンスへの賛成力を高めることができます。
現在のデリゲーションの上位者にはENS開発チーム(True Names Limited、以下TNL)以外にも、Coinbaseや他のDAOガバナンスでも活躍している通称「DAO政治家」の人々も何人か含まれています。
通常のDAOの場合、初期に投資したVCなどがトークンを多く所持している関係上、デリゲートの上位に位置することが多いのですが、ENSは投資家ゼロでDAO化まで漕ぎ着けたので、VCがデリゲートにあまりいないのも特徴的です。
どののようにDAO化は進むのか?
–今後DAO化がどのように進むのでしょうか? 継続していくために検討されていることはありますか?
継続的にDAOのメンバーにガバナンス投票してもらうのは大変なことです。
そこでDAOの行動を、プロトコルの変更や全体の予算案を司る「メタガバナンス」、ENSの開発や他のシステムなどの統合を支援する「エコシステム」、イベントやマーケティングなどに関わる「コミュニティ」、そしてENSやイーサリアムコミュニティに助成金などの形で名前登録費の一部を還元していく「パブリックグッズ」の4つのワーキンググループに分けました。
そしてその4グループごとに予算を割り当て、機動的に資金配分できるシステムをちょうど立ち上げたところです。各ワーキンググループごとに投票とTNLのメンバーとで構成された「スチュワード」が選出され、現在予算案を作成中です。
–ENS DAOと、開発チームとの関係は?
DAOとENS開発チームであるTNLとの関係をもっと分かりやすくすることも重要になってくると思います。
先日TNLの主要メンバーが過去のヘイトスピーチツイートが原因になり、TNLから解雇される事件が起きました。その時に「DAOの投票なしに勝手に解雇したのはENSが分権化されていない証拠だ」と多くの批判を受けました。これについては少し補足させていただきたいと思います。
まずTNL自体はシンガポールに拠点を置く会社で、ENS DAOからは一定の独立性を保持しています。TNLの人事権をDAOに委ねるということは特別に規定されておらず、人事に関してはTNLのチーム内で決定しています。
しかしながらENSネームの年間登録料とENSトークンの50%はDAOの管理下にあるため、TNLの長期の活動資金はDAOに対して予算案を計上し、DAOの投票を受ける必要があります。なのでTNLの活動を強制することはできませんが、DAOが承認しない案件を否決するパワーがあるという点で間接的な影響力を持ちます。
そしてDAO化のそもそもの理由はENSコミュニティに活動を分散化させることであり、その一翼を担う「スチュワード」の任命と罷免に関しては投票で選ばれた「スチュワード」間で決定されます。
今回TNLから解雇されたメンバーはコミュニティワーキンググループのスチュワードでもあったのですが、スチュワード間の投票でスチュワード役の罷免は決定されました。
そしてENSガバナンスの要であるデリゲートに関しては、そのメンバーはデリゲート数が首位なのですが、他のメンバーやDAOがデリゲートを取り上げることはできず、あくまでデリゲートした各ユーザーが他にデリゲート先を変える必要があります。
デリゲートを変えるのはオンチェーンで行うためガス代がかかるのですが、そのガス代を補填する変更を最近発表しました。
そして最後にDAO自体がケイマン諸島に会社として存在します。これはDAOに法的な存在が存在しない場合に税や法的な解釈を各国の規制団体に規定されるのを避けるためと、DAOと他の法人との契約書を結ぶことを可能にするためです。
そしてこの団体のディレクターに現在チームメンバーが任命されているのですが、この任命と罷免権はDAO投票によると規定されているため、代替候補が出てきた段階でDAO投票をすることになっています。
このようにENS全体のガバナンスはいくつものレイヤーに分かれていて、全てに対してトークン投票するわけではないのですが、こういった分かりずらい所をもっと簡潔化するとともに、コミュニティに対して継続的に説明していく必要があると考えています。
ENS DAO の発展については現在コインベースさんと共同で取り組んでいる「DAO BOOK PROJECT」に随時加筆して行ければと思っています。
ENSサービスとしての今後
–DAO化以外で、ENSのサービスとして今後どのようなことを取り組む予定ですか?
DAO以外の大きな活動としてはレイヤー2への連携を進めたいと思っています。各種のロールアップに対応し、レイヤー2から安いガス代でドメインを作れる、DAppsごとにそれを置いたレイヤー2でドメインを作れるようにすることを目指しています。
またその他に、Web3の拡大のためにウォレットログインをWeb2のプラットフォームにも拡げていくプロジェクトをイーサリアムファンデーションと検討しています。先々はその仕組みをオープンソースにして、多くの企業がWeb3の世界に参入できるようにしていきたいと思っています。
→前編を読む(Web2とWeb3を繋ぐ、イーサリアムネームサービスとは?)
関連リンク
→ENS(Ethereum Name Service)
取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
Source: https://www.neweconomy.jp/features/ens/193741