ビットコインのマイニングはエネルギーの無駄? サトシらが議論

ビットコインのマイニングはエネルギーの無駄?

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第53回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

ビットコイン採掘は資源の浪費だという議論はしばしばメディアで行われてきた。サトシが匿名の人物でなく、今もビットコインに関わっていてインタビューに応じたら、この問題には必ず触れただろう。ここでの投稿で紹介したように、サトシならこう応じただろう、という答えを見ると啓発される思いがする。

サトシ・ナカモトの投稿

それではサトシの投稿をみていこう。

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ビットコイン造幣は熱力学的に見て異常である

(注:斜体部分は、サトシ以外の者の質問を指す)

投稿:gridecon 2010年08月06日 午後01時52分00秒

まず言いたいこととして、ビットコインは驚異的なプロジェクトであり、その実装とその目指す目標に私はとても感銘を受けています。このフォーラムを読むと了解できるように、ビットコイン経済の設計と運用の議論は最終的にビットコインをより強固にすると考えており、私のコメントもその意味で受け止めてほしいと思います。*(編集済)。深く調べて議論した上で確信したのは、ビットコインが旧来の通貨に比べて実際、大変効率的だということでした。なぜかというと、政府発行の法定通貨は、基盤となるインフラに、ビットコインで消費されるCPUパワーより遥かに大規模の資源投資が必要だからです。このスレッドは興味深い議論を多く生み出しているので、アクティブの状態で残します。* *1

私は、ビットコイン経済に必要なエネルギー投入量が、ビットコインの成長発展に深刻な障壁になると思っています。長期的に見ると、取引の方が造幣(minting)よりずっと深刻だと思いますが、今は、造幣の方がずっと精密に対象を絞って定義されているので、その話をします。ビットコインの価値を、ブロック造幣競争の勝利に必要な平均電気量の値段に結びつける考え方は広く認められていますが、この関係性に潜む本質が厳密にはどんなものかは、議論の余地があります。

議論の一つとして、コイン生成を選ぶ者は、現実には、電気資源と計算資源でビットコインを購入する選択をしている、事実としてその選択をする人がいるのだから、少なくとも生成者にはビットコインはそれだけの「価値」があるのだ、生成者は、ビットコインの便利さを最大化していると想定される、というものがあります。それと対照的な議論としては、生産コストは市場価格とは違う、最も客観的な尺度は、交換価値が高く、広範に売買される米ドルのような通貨に換算した現在の市場価格である、というものがあります。

私の考えでは、両者の議論はともに的を外し、真の問題点を逸れています。その真の問題点とは、造幣プロセスにおいて、勝利ブロックの生成に巨大なエネルギー量と計算量を浪費するという根本的な異常性なのです。造幣プロセスが存在するのは、現実に通貨を「印刷」しなければならない必要性ゆえであり、暗号数学により通貨の振るまいが予測可能な範囲に収まる、というその魅力的な特性ゆえです。現行の造幣プロセスには計算処理にかかる多大なエネルギー投入量が必要、という事実は極めて不幸なことであり、投入資源ほどの価値もないようなデジタル・オブジェクトの生産にエネルギーを浪費するという意味で、ビットコインはどうやら現実に「富を破壊している」ようだ、という異常な帰結に至ります。

しばしば指摘されることですが、通貨が固有の価値を持つのは必然ではないし、持たなければならないものでもありません。交換手段というのは便利な道具ですので、それが価値を持つのは単に社会的慣習の帰結にすぎません。消費電力に換算したビットコイン生産コストは浪費であり、この通貨にのしかかる「熱力学的負荷」です。例として「コンピューコイン(compucoin)」というもう一つの仮想デジタル通貨を考えてみましょう。この通貨はネットワークノードからCPUサイクルを購入します。この通貨の市場価格は、CPUサイクルの生成に必要な電気代の極めて近くにまで接近して収斂します。造幣にCPUサイクルのコストがかかるのではなく、コインと交換可能なCPUサイクルの価格が通貨価格の合理的な基盤を形成し、既存の市場にこの通貨を統合します。想像するに、ビットコインの代替通貨(おそらくその多くはビットコインのソースコードの多くを共有しています)が不可避的に出現し、ビットコインの現行の造幣プロセスにより、エネルギー投入量の点から見てビットコインは「高価だ」と見られるようになります。この点が他の通貨との競争ではマイナス面となり、広範な普及と長期に渡る価値の維持には妨げになるだけだと思っています。*(編集済)、上で述べたように、私は長期的に見てビットコインに対してはずっと楽観的です。コンピューコインはクールなアイデアだなと思いますけど!*

Re:ビットコイン造幣は熱力学的に見て異常である

投稿:サトシ 2010年08月07日 午後05時46分09秒

金の採掘でも状況は同じです。金採掘の限界費用は金価格付近にとどまる傾向があります。金採掘は浪費ですが、その浪費は、金を交換手段として使える便利さに比べればはるかに小規模です。

ビットコインのケースでも同じだと思います。ビットコインが実現する交換行為の便利さは、電気使用量のコストをはるかに上回ります。ですので、ビットコインを持たないことこそが実は浪費である、ということになります。

引用:gridecon 2010年08月06日 午後04時48分00秒

全体的な点として、コイン生成にかかる非常に高い計算負荷は、事実上、現行システムの必然なのだ、という考え方にも賛同しません。私の理解では、本質的に通貨創出の尺度は時間です。そして、もし時間が基本的な制御変数なら、みんながその所定の時間ピリオド内で「可能な限り多くのさいころを転がす」必要性とは何でしょうか?コイン所有権と取引の「証明チェーン」はコイン産出の方法とは無関係です。

ネットワークに対するノードの影響力は、保有するCPUパワーに比例します。どのくらいのCPUパワーを保有しているかをネットワークに示すためには、それを実際に使うことです。

他の可能性として、一人が持てるCPUパワーが有限ならば、一人一票システムに頼ることもできますが、それは私には考えられません。IPアドレスですか? 多数のIPアドレスを獲得するのは、CPUの数を増やすよりもずっと簡単です。

ある時点におけるCPUパワーの計測は可能であると仮定します。例えば、CPUパワーの集中的な稼働時間が10分当たり平均1分のみなら、全時間を稼働し続けなくても、所定の時間内の合計パワーは証明できます。ただ、実装の仕方が分かりません。その時間にいなかったノードには、過去のチェーンが連続的にではなく、累計9分の中断を挟む負荷サイクルで実際に生成された、と知る手段はありません。

プルーフ・オブ・ワークの素晴らしい特性として、信用を必要としない仲介者を介して中継される点があります。連鎖的な通信管理の心配はありません。最長のチェーンを誰に教えてもらうかは関係なく、プルーフ・オブ・ワークが教えてくれます。

Re:ビットコイン造幣は熱力学的に見て異常である

投稿:サトシ 2010年08月09日 午後09時28分39秒

部屋を暖める必要があるなら、コンピューターの熱は浪費にはなりません。家で電気暖房を使っていれば、コンピューターの熱は浪費ではないです。熱をコンピューターで生み出せば同じコストになります。

電気より安い暖房があるなら、浪費は単にコストの違いにすぎないです。

夏にコンセントの電源を使えば、コストは二倍になります。

ビットコイン生成は最安の場所に落ち着くでしょう。それはたぶん時期としては寒い季節で、電気暖房がある場所です。実質無料になります。

Re:ビットコイン造幣は熱力学的に見て異常である

投稿:throughput 2010年08月10日 午後12時27分30秒

生成分のビットコインが価値を持った場合に、ボットネット作成者が自分のビジネスに対して、現在のボットネット利用に比べてはるかに多くの資源を投じたくなるという、倫理的側面が最終的に議論から失われたと思います *2。

ビットコインの運営が他の活動を上回ったらどうなりますか? コミュニティを利する形でボットネット構築プロセスが進められるのをどうイメージできますか?

引用:jgarzik 2010年08月06日 午後07時53分25秒

ネットワークに正直なノードとして参加することは、全員にとって有益です。

しかし、それがコンピュータ所有者の意志に反して行われ、彼が電気代を支払う必要がある場合は、そうではありません。

もしそうなら、彼はCPU負荷が100%になることで引き起こされる追加の電力消費のために実際のお金を失います。

したがって、ビットコインは無実のコンピュータ所有者から計算力を盗む行動を促進します。

さて、社会的な害と利益を比較してみることもできますが、本当にそれを行う道徳的な権利があると感じますか?*3

Re:ビットコイン造幣は熱力学的に見て異常である

投稿:Gavin Andresen 2010年08月10日 午後09時26分14秒

引用:throughput 2010年08月10日 午後12時27分30秒

ですので、ビットコインは、無知なコンピューター所有者から計算パワーを盗む行為を誘発します。

もちろんです。それとそっくりなのがクレジットカードで、クレジットカードの存在が、無知なクレジットカード利用者からカード番号を盗む行為を誘発します。

あるいは、銀行口座の存在が、システムに侵入して口座番号を盗み読むハッカーの行為を誘発します。

あるいは、車の存在が、無知なガソリンスタンド経営者からガソリンを盗む行為を誘発します。

私は、ビットコインの利益は害を上回ると信じていますし、自分がその道徳的判定を下せると思っています。私が間違っているかもしれないし、ビットコインに関与したことを後悔するかもしれません。しかし、私が最良の結果を生み出すと100%確信したことだけ実行したとすれば、これ以上新しくて興味深いことは成し遂げられなかったでしょう。

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【訳注】
*1 アスタリスク(*)で囲われた部分は投稿した後編集した部分を示す。この投稿者は、最初はビットコインの効率性に懐疑的だったが、後ほど意見を変えたため自分の投稿を一部編集し直した。
*2 この文脈でのボットネットとは、不正な方法で多数のコンピューターを遠隔操作し、それらを利用してビットコインを生成する行為を意味している。この文章は、「ビットコインの価値があがったら、有害なボットネットがビットコイン生成を目的としてはびこるのは倫理的に問題ではないのか?」と問いかけている。
*3 ボットネット等により、ユーザが知らぬうちにビットコイン生成に参加させられ、そのせいで多額の電気代を払う羽目になる害が生じたときに、その害を上回る利益(ビットコインネットワークが健全に保たれること)が生じたことによって害の発生を道徳的に正当化できるかという話をしている。

解説

前半では「ビットコインマイニングはエネルギーの無駄ではないか」という指摘がされています。これは現在までに何度も議題にあがったことで、大量の電力を消費するマイニングファームが問題視されたことは一度や二度ではありません。

後半では「他人のコンピュータの計算資源を気づかれずに利用してマイニングし得ることは道徳的に問題ではないのか」という指摘がなされています。このようなツールは実在し、日本でもCoinhive 事件という刑事裁判にまでなった事例があります。

ビットコイン肯定派(本文ではGavin Andresen)は、いずれの指摘も「それを上回る利益がビットコインにある」と反論しています。なにもビットコインだけがこれらの問題を抱えているわけではなく、既存の通貨や決済システムも同種の問題があります。例えば物理的な現金は発行に膨大なエネルギーやコストがかかりますし、クレジットカードは毎日のように不正利用がどこかで行われています。従って、問題がある事自体をもってビットコインを否定するのはおかしい、利益との比較衡量をすべきだ、という考え方があります。これは多くのビットコイン支持者が同様のことを考えていると思われます。

小宮自由

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Source: https://www.neweconomy.jp/features/sato/385729