「儲かる」じゃなくて、ゲームを楽しみ ちょっとお得に。「資産性ミリオンアーサー」が実現したブロックチェーンゲーム新体験(スクウェア・エニックス 畑圭輔/渡辺優) | あたらしい経済

「LINE NFT」で話題!「資産性ミリオンアーサー」成功の秘密に迫る

LINE Xenesisが運営するNFTマーケットプレイス「LINE NFT」で、話題のNFTがある。ゲーム大手のスクウェア・エニックスが手がける「資産性ミリオンアーサー」だ。2021年にコレクティブルNFTデジタルシールからスタートしたこのプロジェクトは、今年4月にゲームをローンチ。これまでにNFTデジタルシールはシリーズ累計で15万枚以上販売され、ゲームは8月からシーズン2を迎える。

© SQUARE ENIX

今回は「資産性ミリオンアーサー」に立ち上げから携わっているスクウェア・エニックスのブロックチェーン・エンタテインメント事業部 事業部長の畑圭輔氏、そして同社でこのゲームのプロデューサーを務める渡辺優氏を「あたらしい経済」編集部は取材。両氏にこれまでの取り組みやプロジェクトに込めた想い、「LINE NFT」と連携した今後の構想などを訊いた。

「資産性ミリオンアーサー」とは?

–「資産性ミリオンアーサー」はどのような経緯でスタートした企画なのでしょうか?

畑:「資産性ミリオンアーサー」は、まずはデジタルシールNFTのプロジェクトとしてスタートした企画です。コレクティブ要素のあるデジタルシールを第5弾まで出した後、今年4月からゲーム化してシーズン1をスタートしました。

そもそもは2017年頃からブロックチェーン領域をリサーチしていく中で、自分たちでも実際にプロダクトを作ってみた方が、一つの模範になるようなモデルが作れるかも知れないと思って動き出した企画です。

スクウェア・エニックス ブロックチェーン・エンタテインメント事業部 事業部長 畑圭輔氏

–スクウェア・エニックスさんの数あるIPの中で、初めてのNFTの取り組みにミリオンアーサーシリーズを選んだ理由は何ですか?

畑:リサーチも含めて着手したのが、まだまだNFTに関して言葉も仕組みも一般には認知されていない頃でした。そんな中で自社の中でも色々なチャレンジをしてきたIPでもあるミリオンアーサーだからこそ、新しい取り組みや技術との相性も良く、最適だと考えたからです。

私自身も拡散性ミリオンアーサーの頃から、当時ミリオンアーサーシリーズを立ち上げたプロデューサーと一緒に長年やってきたので、思い入れも強いIPです。

–ゲームの内容について教えてください。

渡辺:元々のNFTプロジェクトとしての「資産性ミリオンアーサー」のコンセプトは、デジタルシールをカスタマイズするというものでした。そのカスタマイズするという部分を大きく拡張したのが、現在のゲームです。

スクウェア・エニックス ブロックチェーン・エンタテインメント事業部 プロデューサー 渡辺優氏

ゲーム内容は簡単に説明すると、キャラクターを選んで冒険に出て、それで得られるアイテムを使って、デジタルシールNFTを作成し、コレクションを増やすというもの。自分で作ったデジタルシールNFTを「LINE NFT」で他のユーザーに販売もできますし、他のユーザーが作ったシールを購入することもできます。

ゲーム内の設定はユニークで、ダンジョンの攻略で得られる素材が「寿司」、手に入れた「寿司」を工場で「パンツ」に変え、その「パンツ」からギアシールと呼ばれるカスタマイズシールを作成することができ、必要に応じてNFT化ができるという設定になっています。

–確かに、かなり設定がユニークですね。

渡辺:畑がもともとNFTコレクションの「資産性ミリオンアーサー」を立ち上げたときに、なるべくブロックチェーン関連の技術用語を使わないようするという方針がありました。だからNFTではなく、デジタルシールという言葉も使っています。

私もマスに広げるには分かりやすい言葉で、フックを作らなくてはそもそも遊んでもらえないと考えて、「寿司」で「パンツ」を作るという世界観を畑に提案したんですよね。もちろん「寿司」や「パンツ」は、ミリオンアーサーシリーズの漫画「弱酸性ミリオンアーサー」にもよく出てくるものではあったんですが。

畑:それを聞いて最初は困惑しました(笑)。これでマスを狙えるのか、という不安もありましたが、面白いし、挑戦しようということでこの設定になりました。初めは暗号資産に詳しいユーザーさんからは、「ふざけているの?」とコメントもらうこともありましたが、結果として「一度聞いたら忘れない」と今では評価もいただいています。

約4ヶ月で、2万3000人が遊ぶブロックチェーンゲームに

–現在ユーザーはどのぐらいいますか? またどのような方がプレイされているのでしょうか?

畑:ゲームをリリースした今年4月はNFTホルダーの数が約3000人でしたが、そこからすでに約2万3000人まで増えています。それだけのユーザーが、「LINE NFT」でウォレットを作ってNFTをもってゲームで遊んでいただけている状況です。ブロックチェーン業界の方々にこの数をお話しすると、すごいとご評価頂けています。8月から新しいシーズンも始まるので、よりユーザーを増やしていきたいと思っています。

ユーザーは、はじめはNFTからプロジェクトをスタートしたので、暗号資産に詳しい方が多かった印象ですが、ゲームリリースからどんどんとライトな一般層の方も増えてきていますね。

また基本的にこのゲーム自体は年齢制限がなく、どなたでも遊んでいただけるようになっていますので、SNSなどで拝見していると親子で遊んでいただけている方なども多いです。

なぜ「LINE NFT」を選んだのか?

–NFTの販売やブロックチェーンゲームを作るにあたって、どのブロックチェーンを使うかも大きなポイントです。「LINE NFT」を選んだ理由は何でしょうか?

畑:イーサリアムなど他のブロックチェーンも当初は検討しました。ただやはり多くの方に遊んでいただくには、例えばメタマスクの設定なども大きなハードルになりますよね。また企業としてNFTや暗号資産を扱うことのハードルもあります。

LINEさんは国内で普及しているメッセンジャーアプリであり、暗号資産取引所やNFTマーケットプレイス、ウォレットまで、オールインワンでサービスを提供しています。ユーザーのゲームの遊びやすさ、企業としての挑戦のしやすさ、それらを総合的に考えてLINEさんを選びました。

–これまでのゲームのシーズン1を、どう評価していますか?

畑:4ヶ月弱というスピードで、ユーザーを2万人以上増やすことができ、暗号資産好きのユーザーだけでなく、ライトなユーザーも遊んでいただけるようになったことで、当初から想定していた経済圏が作れたと思っています。

このゲームは、課金せずとも遊べます。そしてNFTの作成や出品も無料でできる。また多くのNFTが安価で購入しやすい価格で流通しています。本来のNFTの取引は、ここまでカジュアルには難しかったと思うんです。

–確かに、「LINE NFT」ではガス代をユーザーが負担しなくてもいいですからね。ちなみにどのぐらいトランザクションがあるんでしょうか?

畑:「資産性ミリオンアーサー」だけで、「LINE NFT」が採用しているブロックチェーン「Finschia」(フィンシア)のトランザクションの半分以上を超えると報告いただいています。ゲームを通じて初めてNFTを触るという方にも積極的に体験いただける機会を作ることができて良かったと思っています。

ただそれだけのユーザーの積極的な動きが見られたことで、より遊んでいただきやすい、またNFTに触れていただけるような新しいUI/UXも考えなければいけないという課題も認識できたファーストシーズンでした。

渡辺:私も個人的には、出来過ぎと言ってもいいぐらい良い結果を出せたシーズンだと思っています。畑が言ったように多くのユーザーに遊んでいただけたことで、沢山のフィードバックが得られたことも大きいですね。

ただゲームは、ユーザーが一回離脱してしまうと、戻ってくるのが難しいことが多いものです。だからこそユーザーの声を大切にして、引き続き現在の熱量を下げないように、改善をしていかなければいけないと考えています。

— 「Finschia」のトランザクションの半分以上はすごいですね。

畑:はい、私も一度LINEさんに「トランザクションが増えていますけど大丈夫ですか」と念のため確認したんですが、「むしろどんどん使ってください」と言っていただけています。

おかげさまでゲームリリースしてから、「LINE NFT」さんで取引数や取引金額に関しても常に上位をキープし続けております。

「Play to Earn」ではなく、「次世代ポイ活」という新たな価値提供

–ブロックチェーンゲームは「Play to Earn」という言葉がよく使われますが、「資産性ミリオンアーサー」は、ユーザーからも「次世代ポイ活」と表現されているのを聞きます。これは当初から狙っていたのでしょうか?

畑:最初にゲームの設計を考えた時に、NFTを高額にすると活発な取引が生まれないだろうと思っていました。例えば初期投資10万円かかるとすると、ユーザーはその原資を回収しようという心理になります。そしてトークン価格が下がっていくとマーケットはネガティブなドレンドになっていく。そういう状況で経済圏をぐるぐる回すのは難しいですし、そもそもゲームを楽しむという大切な部分が失われてしまう。

「資産性ミリオンアーサー」はあくまで、独自のデジタルシールを作ったり、それをコレクションしたりすることに楽しさを見出してほしいゲームです。だから稼げるというより、気軽に取引のできる安価な価格を設定しました。1日ちょっとゲームで遊んで、その結果数十円収入を得られる、そのような体験を提供できたことで、結果として「次世代ポイ活」というように言っていただけるようになったのだと思います。

日本人はポイントを集めてそれで何かを買うとか交換するとかが好きですよね。暗号資産と言うと投資みたいなイメージが強くまだまだハードルが高いですが、ポイ活のように表現してもらった方が入りやすいのではと思います。

実際ユーザーが取得するのはポイントではなく暗号資産ですが LINEアプリでは、LINE Payでの支払いに暗号資産を利用できるので、暗号資産を意識せず使うことできます。「資産性ミリオンアーサー」で得た収入で、フードデリバリーを頼んだ、LINE Pay対応の店頭で使った、などという声をいただいています。

結果としてですが、マスアダプションしていきたいWeb3サービスとしては、このような形が良かったなと振り返っています。

渡辺:先ほど親子のユーザーも多いと話しましたが、気軽に遊べるので、「ゲームをやって、ほらジュースが買えた」など新たな経済の勉強としても使っていただけると嬉しいですね。

8月22日から、シーズン2始動!

–8月22日からスタートしたシーズン2について教えてください。

渡辺:より遊びやすい形を既存ユーザーに提供したいので、全体としてシーズン1で色々フィードバックいただいたユーザビリティー部分の改善に注力しました。細かい部分ですが、何度もシールを製造できる仕組みだったり、同じ内容のポップアップが出る頻度を下げたりなど。

また「釣り堀」という、キャラクターの待機時間が減るアイテムを入手できる新機能も実装します。細かい機能などについては、先日YouTubeとニコニコ動画の※生放送で告知しましたので、それも併せてチェックいただきたいです(→ 『資産性ミリオンアーサー』シーズン2最新情報発表会)。

※生放送発表当時の情報から一部変更がございます。

そしてまだ詳細は言えないんですが、シーズン2後半に新しいコラボレーションを実施しようと考えています。そして10月が「資産性ミリオンアーサー」の2周年なので、大きな企画やキャンペーンを検討しています。ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。

–ちなみにシーズン2から遊んでも、遅くないでしょうか?

畑:全然大丈夫です。基本的にいつから始めても楽しんでいただけるゲームになっています。もちろんシーズン1で製造できたギアシールは製造できなくなりますが、それらのアイテムは「LINE NFT」で、比較的安価に手に入れることが可能です。

ブロックチェーゲームを作ってみて、分かったこと

–お二人はこれまでもコンソールやソーシャルゲームにも携わって来られたと思います。ブロックチェーンゲームを運営してみて、どんな違いを感じますか?

渡辺:まずユーザーと私たちゲーム運営側の距離感が、ソーシャルゲームなどとは全然違うなと実感しています。これは既存のNFTやブロックチェーンゲームのユーザーさんも多いことからだと思うんですが、SNSでのコミュニケーションが多く、距離が近いですね。

そしてそこの距離で指摘してもらったフィードバックを、ゲーム作りに活かせるのはすごくいいことだと思っています。気軽にツイッタースペースを開催してユーザーさんにも話してもらう、という取り組みもしていますが、そういったことをするのもスクウェア・エニックスでは初めてなんじゃないかと思います。

畑:例えばソーシャルゲームは、開発も含めてネイティブアプリが一般的で、ある程度仕様を固めたら1年ぐらいは変えることができないんですよ。規模にもよりますが、大きな機能だと3年ぐらいでようやく改善できるということもあります。

一方、渡辺が言った通りブロックチェーンゲームはユーザーとの距離も近いので、フットワークの軽さが必要だと思っています。「資産性ミリオンアーサー」はブラウザゲームで、実はある程度設計を意図的に緩くしているんです。ちょっとした改善であれば3ヶ月スパンで入れ込み、お客様に改善を楽しんでもらえるようにしています。

渡辺:あとやっぱり「Free-to-Play」と違うのは、NFTを活用した経済圏もある部分ですね。その部分をちゃんと絡めて、企画やキャンペーンを組み立てエンターテイメントとしてゲームを提供していかなければいけないのも大きな違いですね。運営側としても新しい体験ができていると思います。

–ブロックチェーンゲームの登場によって、既存のゲームやゲーム業界はどう変わると考えていますか? 多くのゲームで、ブロックチェーン要素が加わるような未来は来るのでしょうか?

畑:既存のゲーム事業とも連携して新しい取り組みをしていくことは、ブロックチェーン・エンタテインメント事業部である私たちの存在意義でもあります。だから今得られている新しいノウハウを他のゲームにも活かし、シナジーを生んでいきたいです。

しかしアイテムの売買などの経済圏がビルトインされたゲームが、ゲーム業界全体のスタンダードになるかと言われれば、そうではないかも知れないとも感じます。おそらく馴染むゲームも、馴染まないゲームもある。

ゲームにとって、その世界観で遊ぶ、というのがとても重要です。そこに経済性を持ち込むと、世界観が変わることもある。NFTの要素を入れることで世界観を保ってより面白くなるのならいいですが、そうではないこともあると思います。本当に難しい部分ですね。

渡辺:ブロックチェーンを活用したゲームは、新しい体験です。でも畑が言ったような難しさもあり、まだまだコンソールやソーシャルゲームのユーザーに浸透していない印象があります。

ただ私はこれまで色々なゲームに関わってきましたが、既存のゲームのユーザーもこの新しい体験は好きだろうと思っているんですよね。

ゲームをこれまでプレイしてきた方々は、店舗を運営するような体験などを通して、ゲーム内のアセット売買が紐づいた体験をしたことが必ずあるんじゃないかと思います。

シンプルに言えばブロックチェーンゲームは、それが本当に現実で使える資産と紐づいて、遊べるようになったエンターテインメントだと思っているんですよね。

だから親和性のあるゲームでもあるので、私たちが今得ている経験を活かして、まずはいかにエンターテインメントとして面白いもの提供できるかという軸を大切に、考えていかなくてはいけないと思っています。

「LINE NFT」と連携した今後のプロジェクト

–「LINE NFT」とは今後どのように取り組みを強化していく予定ですか?

畑:「LINE NFT」さんの中での色々なプロジェクトとのコラボを実施していきたいですね。同じチェーン上にあるコンテンツなので、連携して相互のユーザーが盛り上がるような施策もしていきたいです。

渡辺:ゲーム内のアイテムを合成してNFTを作成するメガプレスという機能も、実は今は意図的にトークンIDを制御して「資産性ミリオンアーサー」のものしかできないようになっているんですよね。

仮にその制限をとれば、色々と「LINE NFT」内のIPとも面白いコラボができるようになる。例えば他のプロジェクトのユーティリティを「資産性ミリオンアーサー」内で提供することも可能です。そういったコラボレーションを先々は進めていきたいと思っています。

これもブロックチェーンゲームだからこそ、できることかもしれないですね。「LINE NFT」さんでは今100ブランドぐらいプロジェクトが動いていると思いますので、可能性はたくさんあると思っています。

これからの「資産性ミリオンアーサー」が目指すもの

–これから「資産性ミリオンアーサー」をどのようなゲームとして育てていきたいですか?

畑:渡辺にも、5年、10年、20年、ずっと続くサービスにしたいと話しています。ユーザーが「あの10年前に買ったシールがさ」みたいな会話で盛り上がるようなサービスにできたら嬉しいですね。

渡辺:畑の言ったように長くユーザーさんにとにかく楽しんでいただくのと同時に、デジタルシールをコレクションしてカスタマイズするという、基本のコンセプトはずっとブラさずに続けていきたいです。

今回ゲームを作ったことで、デジタルシールのデザインをカスタマイズすることが可能になりました。でもまだまだ、色々なカスタマイズの要素があると思うんですね。音声をつけるとか3Dにするとか。また私自身はバトルも好きだったりするので、ステータスをカスタマイズするなどもありだと思っています。

ただそんな多くの要素の中でも、基本にはNFTがある。ユーザーが買ってくれたNFTのデジタルシールがベースにあって、それをカスタマイズして成長させて、世界で最高の1枚が作れる、そういうコンテンツをご提供していきたいと思っています。

関連リンク

取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
撮影:堅田ひとみ

Source: https://www.neweconomy.jp/features/linenft/328555