徹底解説!ビットコインETF、その基礎知識と市場へのインパクト
暗号資産(仮想通貨)取引所「SBI VCトレード」の市場オペレーション部 清水健登氏によるコラム/レポート連載。今回は先日米国で承認され取引が開始された「ビットコイン現物ETF」について、ETFに関する基礎情報やこれまでの経緯、流通後のマーケットはどのように受け入れたか、イーサリアム版の可能性は?、今後の可能性などについて寄稿いただきました。
2024年1月10日(日本時間11日未明)、SEC(米国証券取引委員会)により11件のビットコイン現物ETFが承認されました。ビットコイン先物ETFは2021年に承認されてから現在に至るまで取引が続いていますが、現物ETFについては、2013年に米暗号資産取引所Geminiの共同創設者であるウィンクルボス兄弟がSECに対して行った申請(残念ながら本申請は却下されています)以来、実に10年以上の時を経た承認であり、暗号資産の世界的普及という観点で歴史に残る出来事だったといえるでしょう。
本稿では、現物ETF承認の意義に留まらず、承認後に時間が経過したことで見えてきた市場動向の推移、今後の展開などについて掘り下げていきたいと思います。
そもそもETFとは
ETFとは「Exchange Traded Funds(上場投資信託)」の略語で、様々な指数や銘柄に分散投資するファンドの長所と、いつでも取引することができる株式の長所を組み合わせた商品です。大別すると、TOPIX(東証株価指数)やNASDAQ(ナスダック総合指数)のような株価、金価格を始めとした指標価格に連動する「インデックス連動型」と、連動対象の指標が存在しない「アクティブ運用型」の2種類が存在します。いずれのETFも、企業株ごとの個別分析が不要なことで、投資初心者や安定志向投資家から支持を集めています。
ETFは少額から始められ(株式投資における「単元株(最低取引数量の単位)」のような決まりがないため)、商品を直接保有することなく投資を行うことができる上、取引タイミングの自由度も高くなっています。また、国によっては現在の暗号資産に比べ、税制上有利になるケースも考えられます。ただし、売買するタイミングが市場参加者の判断になること、仲介手数料や運用報酬などのコストがかかること等のデメリットも存在します。
ビットコインETF需要の背景
暗号資産は歴史的に他の資産クラス(米ドル指数や債券、商品、株式等)との相関が低く、伝統的なポートフォリオにおいて、暗号資産を組み入れることでリターンを向上させることができる可能性があります(一例として、米暗号資産取引所Coinbaseが行った研究 が存在します)。
このことから、既存金融の世界において暗号資産をポートフォリオに組み入れることに一定の需要が常に存在していました。一方で、年金基金や退職金口座、証券口座、機関投資家などは、未登録証券とみなされる可能性がある暗号資産をポートフォリオの一部とすることはできないというジレンマがありました。また、暗号資産取引所の不透明性を敬遠していた一般投資家にとっても、規制当局の監視を受けて運用されるETFは、今までよりも安心して投資することができる投資対象と見なされるようになります。
Coinbaseの研究では、伝統的金融において定番とされる「60/40ポートフォリオ(資産の60%を株式に、40%を債券に割り当てることで、株式のボラティリティを低減しながらリターンの追求を目指した資産配分)」に対し、時価総額を加重した暗号資産指数「Coinbase Core Index(COINCORE)」を1%〜5%加えた場合について検証しています。
60/40ポートフォリオは年金基金や大学ファンドなどの機関投資家、資産運用会社、退職金口座、401kなど、さまざまな主体に採用されており、この検証は、まさに「今まで暗号資産を敬遠していた運用者が、仮に暗号資産をポートフォリオに組み入れることを検討するなら」という思考実験を進めるのにうってつけです。
∨ 60/40ポートフォリオにCOINCOREを1%~5%加えた結果 ∨
検証結果は、暗号資産市場にとって歓迎すべき内容でした。60/40ポートフォリオに2%のCOINCOREインデックスを加えた場合、5年間リターンが年率換算で1.2%、シャープレシオが0.1向上。絶対リターンだけでなく、リスク調整後リターンの面からも、暗号資産をポートフォリオに組み込むことがプラスに寄与する可能性が示唆されたのです(普段暗号資産のボラティリティに目を奪われがちな人々にとってこの結果は驚きなのではないでしょうか)。
「ビットコインETF需要の背景」という見出しのテーマに戻ると、現物ETFが購入された場合、ETFの管理者は市場に存在する原資産(ビットコイン)の現物を買い付けて保管するため、上記のような『今まで暗号資産をポートフォリオに組み入れることができなかった』大口投資家・一般投資家による継続的な資金流入(ポートフォリオへの段階的な暗号資産の組み入れ)は、長期の暗号資産価格にとってポジティブに働くのではないか、ということが、既存の暗号資産市場参加者がETFの承認に対して期待していた内容だったのです。
ビットコインETFで最大のGBTCの運用資産総額は金最大のETF「SPDR Gold Shares」の40%以下であり、株式最大のETF「SPDR S&P 500 ETF Trust」の5%以下であるのが現状です(2024年1月25日現在)。そのように考えると、今後BTCの時価総額の拡大にはまだまだ上昇余地が残されているかもしれません。
なぜ「先物」でなく「現物」が必要だったのか
ビットコインもイーサリアムも、先物ETFは既に存在しますが、償還(ETFを返還して原資産を受け取ること)を行うことができない先物ETFは、原資産の価格と乖離した値動きをしてしまうことがありました(これを「トラッキングエラー(が大きくなる)」と表現します)。
具体的な事例として、Grayscale社による最大規模のビットコインETF「GBTC」が挙げられます。GBTCは、もともと先物ETFとして市場で流通していましたが、今回のSECによる承認を経て先物ETFから現物ETFに転換しました。現物転換前のGBTCは、ビットコインの償還を行うことができず、ETF市場における需給によって価格が決まる状況でした。
∨ GBTCのプレミアム / ディスカウント推移(2015年5月~2024年1月10日) ∨
上図は、GBTCのBTC価格に対するプレミアム・ディスカウントの推移です。最大で140%のプレミアム、最低で48.32%のディスカウントで売買されていることがわかります。これほどまでに原資産価格から乖離した値動きをする商品に対して、いかにETFである(規制当局の監視を受けて運用される)といえども、伝統的金融の投資家が参加するのは無理があったと言わざるを得ません。
チャートはETFが承認された1月10日(日本時間11日)までとなっていますが、ETF承認期待が高まるにつれ、転換後に償還が可能になることが意識され、ディスカウントが徐々に解消されていく様子が観察されます。
先物ではなく現物ETFが承認されたことで、米国のETF投資家が真の意味で(現物と乖離することのない)暗号資産へのエクスポージャーを獲得した、というのが、今回の承認の重要性なのです。
米国ETFと他国のETFの比較
カナダやドイツなど、既に現物ビットコインETFが上場されている国々が存在するのに、なぜこれほどまでに米国の現物ETFが注目されるのでしょうか。米国のETFが他国のETFと比べて特別視される理由は、市場規模に占める米国の存在感の大きさによるものです。
以下はヨーロッパ最大級のデジタル資産管理会社CoinSharesが公開した2023年の年次報告書(
∨ CoinSharesが公開した2023年末時点での各ETF / 暗号資産 / 国の内訳 ∨
現物ETFが承認される直前の状態で、米国は既に先物ETF市場において圧倒的な存在感を示していたことが伺えます。
現物ETF承認後のデータとして、BitcoinTreasuries.NETが公開しているデータの最終値を参考にすると、今回追加されたビットコイン現物ETFが保有するビットコインの枚数がビットコインの最終(最大)枚数に占めている割合(全ビットコイン市場における現時点での影響力)や、ETF市場という観点での国別のビットコインのシェアを推し量ることができます(集計対象のETFが若干異なる点や、ドル建ての残高ではなくビットコインの枚数を見ている点には注意してください)。
∨ BitcoinTreasuries.NETの最終更新値を参考に算出したビットコインETF市場の現況 ∨
日本における暗号資産ETFの税制と扱いについて
仮に日本で暗号資産ETFを買うことができた場合、分離課税になるかもしれないとの声がSNSで散見されます。現時点での日本における暗号資産ETFの税制や取り扱いの議論については、So & Sato Law Officesの斎藤弁護士・水嶋弁護士による見解が、公開情報として最もまとまっているように思われます。
概略としては、
① 暗号資産ETFは(1)投資信託型(2)受益証券発行型の2種に分けられ、(1)については総合課税、(2)については検討が必要
② NISAについて、つみたて投資枠の対象にはならず、成長投資枠の対象としては排除されていない(ただしハイリスクなものは排除されるのがNISAのスタンス)
③ 第一種金商業者による暗号資産ETFの取扱いは、現行法上可能
といった整理がなされています。
なお、当内容については、あくまで両弁護士の見解であり、関係当局の見解ではない点には注意が必要です。
ビットコイン現物ETF承認後のマーケットにおける受容
1月11日(日本時間12日)に取引開始となったビットコイン現物ETFは初日に46億ドル超・最初の3日間で100億ドル超の取引高を記録。BloombergのシニアETFアナリストEric Balchunas氏はこの状況について「2023年に発売された500種のETFの取引高は、今日(1月16日の取引日)、全て合計して4億5,000万ドルだった」と指摘しました。昨年上場されてきた多くのETFと比べて、ビットコインETFに大きな取引需要が集まっていることが推し量れます(実際にはGrayscaleからの流出も出来高に影響しているため、少し割り引いて考える必要はあります)。
直近90日間のGoogleトレンドからは、2024年1月11日にインタレストが集中しており、インターネットの関心がSECの承認をピークとしていたことがわかります。
∨ 直近90日間のGoogleトレンド ∨
国別にはエルサルバドルの関心が最も高くなっています。エルサルバドルは2021年9月に世界で初めてビットコインを自国の法定通貨としており、ETF情勢が気になるのも頷けます。
∨ 直近90日間のGoogleトレンド ∨
関連キーワードは、上位をビットコインETFの検索が独占していますが、これは検索トレンドにおいて珍しいことです。大抵の場合、価格とチャートを検索する各国の単語が並んでいることが多いからです。
∨ 直近90日間のGoogleトレンド ∨
イーサリアム現物ETF承認期待へのレジームチェンジ
ビットコイン現物ETFの承認可否が確定した後は、現在各社が申請中のイーサリアムに市場の関心が移っていく値動きが観察されたことも特筆すべきでしょう。
∨ BTC/USD, ETH/USD, ETH/BTCチャート(4時間足 / 2024年1月8日~現在) ∨
今回の承認において、ARK 21 SharesのBTC現物ETF承認可否の最終判断期限は1月10日(日本時間11日)でした(同時申請中のビットコイン現物ETFの中で最終期限が最も早いETFであり注目されていました)が、前日の9日(同10日6:11)、SEC(米証券取引委員会)のSNS(X)アカウントが何者かに侵害され、ETF承認との投稿がなされました。
15分後にはゲンスラーSEC委員長が「ETFは承認されていない」旨を発信、SECがSNSアカウントの権限を回復し、誤投稿を削除・正式アナウンス(ETF未承認)を行うと事態は一旦収束しましたが、この誤報をきっかけにイーサリアムがビットコインをアウトパフォームする流れへと市場は変化していきました。
誰が今のビットコイン(ETF)を売っているのか
∨ BTC/JPYチャート(4時間足 / 年初来) ∨
価格面ではビットコイン現物ETF上場時を頂点に、安値を切り下げる状況が続いています。過去のETF上場前後で観察されてきた「事実売り」に加え、GBTCからの退避売りが要因とされています。ここでは、GBTCを売却している各参加者について、少しだけ解像度を上げて考えてみたいと思います。
まずはGBTCの動向について、当初619,162枚あったビットコインの残高は、523,516枚(1月25日時点)まで減少を続けています。一日平均で10,000枚以上、当初比で約15.45%減と、看過できない量の流出が発生しています。
∨ Grayscale Bitcoin Trustのビットコイン保有枚数の推移 ∨
取引が行われている現物ETF全社累計では637,266枚から648,754枚へ増加していることがわかります。ただし、1月24日からはGBTCの売りを吸収しきれず、減少に転じている点に注意が必要です。
∨ 現物ETF10社累計のビットコイン保有枚数の推移 ∨
GBTCを除いた9社の保有枚数推移を作成してみると、順調に増加(18,104枚 → 125,238枚)していることがわかります。こちらの方が、「今回の承認を受けての」資金流入の実態に近いと言えるのではないでしょうか。中でも、世界第1位の資産運用会社BlackRockの「iShares Bitcoin Trust」と、同3位のFidelityによる「Fidelity Wise Origin Bitcoin Fund」の伸長が目立ちます。
∨ Grayscale Bitcoin Trustを除く9社のビットコイン保有枚数の推移 ∨
GBTCの影響は可視化されましたが、売却に参加する主体としては、以下のような参加者が考えられます。
・DCG(Digital Currency Group)
Grayscaleの親会社であるDCGは、GBTCのディスカウントを軽減するために買い支えを行っていたと報道されています。総額でどの程度の株式を保有しているのかは明確ではありませんが、最大級のプレイヤーであると考えられます。
・破綻後に資産を清算する必要がある主体
具体的にはFTX、BlockFi、3AC等が挙げられます。FTXに関しては、1月23日の報道で保有していた全株式(2,230万株)の売却完了が明らかになっており、これは概算で19,930BTCに相当します。日平均10,000BTC超の純流出規模に対して、この数量は大きいと言え、一方で、現環境でもGBTCを新規に購入する参加者が一定数存在することも同時に伺うことができます(そうでなければ純流出規模はより大きくなると考えられます)。
3ACについては2020年末時点で3,900万株、BlockFiについては2021年の報道ベースで2,000株相当以上のGBTCを保有していたと推定されます。ただし、このうちのどの程度の数量が既に清算済であるかは不明であり、全量を売却見込み値として見積もるのは過大になるかもしれません。
・機関投資家や個人投資家
ARKに代表されるような機関投資家、GBTCをディスカウント環境下で長期保有していた個人は、ビットコイン価格の上昇を受けての利益確定売り、GBTCの手数料が他のETFに対して高すぎること(年率1.5%の管理手数料が乗せられており、他社の6倍程度の水準です)を理由に、他社ETFへの乗り換えを進めています。
・裁定取引者
冒頭で記載したように、GBTCは長らくディスカウント価格で取引されていたため、GBTCを購入し、ビットコインの先物を売ることで、ETF現物転換後に(償還できるようになるため)ディスカウントが消失することを見込んだ裁定参加者が一定数存在していたと考えられます。現物の売却と同時に先物が買い戻されるため、先物市場と総合すると純粋な売却よりも影響は軽減されますが、現物に対しては売却圧力として強く働いていたはずです。ディスカウントが消失した現状において、Grayscaleに対して管理手数料を払いながらポジションを維持するインセンティブは存在しないため、彼らのポジションの多くは既に解消済であると考えてよいのではないでしょうか。
Grayscaleのビットコイン保有残高が減っていくにつれて影響力は弱まっていき、資金流入出のフローは徐々に正常化していくことが見込まれます。現物ETF全体でのフローに加え、GBTCの推移は今後もウォッチしていく必要がありそうです。
トラッキングエラーのその後
ETFについて説明する際に、「先物ETFはトラッキングエラーが大きく、現物ETFでは小さくなるため、米国のETF投資家が真の意味で(現物と乖離することのない)暗号資産へのエクスポージャーを獲得した」という内容を記載しました。ETF取引開始から時間が経過し、現物ETFにおける実態がある程度見えるようになってきたため、言及しておきます。
∨ 各ETFのプレミアム推移 / (白い水平線は0地点、現物基準価格にはCoinbaseのBTCUSDを採用)∨
現物ETF取引開始直後は購入者が殺到し、5%前後のプレミアムで推移していましたが、現在(1月26日時点)は市場の裁定機能(プレミアムが高ければより多くのETFが発行され、ディスカウントが大きければ償還される)が徐々に働き、ビットコインの現物価格に沿った値動きをしていることがわかります。このような観点からも、今回のETF上場は成功だったと考えられます。
今後の展望
米国におけるETFの進展
今後のETF関連の動きで注意しておきたいのは、やはりビットコインとイーサリアムの進捗、そして、イーサリアムに続いて申請が行われるであろう「次の銘柄」が何になるのかといったヘッドラインです。
ビットコインについては、BlackRockに次ぐ世界第2位の資産運用会社Vanguardをはじめ、UBS、Merrill Lynch等、一部の大手資産運用会社はまだ参入を見送っているのが現状です。承認後のETFの取引状況を観測した結果、これらの企業が参入してくることは十分に考えられるため、動向を気にしておきたいヘッドラインです(第1位のBlackRock、第3位のFidelityの影響力の大きさは上述したとおりです)。
また、ビットコインのオプションETF取引を要請する「フォーム19b-4」をSECが受け付けており、最短で5月末にオプションETFが誕生する可能性があります。ビットコインのオプション市場は徐々に成熟してきており、現在では先物市場と並ぶほどの建玉が存在しているため、本件は今後の注目点となるでしょう。
∨ 先物建玉とオプション建玉の比較(日足 / 直近3年間 / 黒:ビットコイン価格 オレンジ:先物建玉 水色:オプション建玉) ∨
Bitwise(Bitwise Bitcoin ETFの運営者)がファンドのウォレットアドレスを公開した流れも、ブロックチェーン技術の既存金融との差別化(透明性)という観点で見逃せません。彼らが保有している裏付け資産の数量を、監督機関だけでなく誰もが確認可能であるという事実は、あえて指摘しておくべき大切なポイントです。
イーサリアム現物ETFについては、ビットコインの承認までの流れを考えると、承認可否判断最終期限まで決定が引き延ばされる可能性が高いとの見方が市場では一般的です。最終期限が最も近いETFは、VanEckの「VanEck Ethereum ETF」で、2024年5月23日(日本時間24日)となっています。
SECはイーサリアム現物ETFの可能性を検討する際に、今回承認されたビットコイン現物ETFの効果を十分に観察・検証することが想定され、その観点からも、すぐに(最終期限よりも大幅に手前の日程で)承認が降りることを期待するのは難しいと考えます。
イーサリアム現物ETFの承認に際しては、「イーサリアムは証券か、それともコモディティ(商品)か」という命題も意識されます。暗号資産の証券性を問う基準として、かつてSECとHowey社との訴訟で提示された「Howeyテスト」と呼ばれる基準が一つの参考になると考えられています。承認可否判断の過程で、暗号資産の証券性判断基準の明確化が進むとしたら、それは暗号資産市場の長期的発展にとって歓迎すべきでしょう。このテーマは暗号資産市場のトレンドを大きく左右するため、引き続き注目したい内容です。
次の申請銘柄が何になるのかについては、現段階では判断が難しい状況です。ただし、冒頭で記載したETFの構造(管理者が現物を市場から調達し保管すること)を考えると、時価総額上位かつ市場で売買高があり、米国で排除されていない銘柄から選ばれると考えるのが自然です。
米国企業や銀行における受容の可能性
2023年12月に発行された米国財務会計基準委員会の暗号通貨会計規則(ASU 2023-08)が、2024年12月15日以降に始まる会計年度から有効となる見込みです。
本会計規則以前は、米国において暗号資産は無期限の無形資産として(減損を差し引いた取得原価で)会計処理されていました。本規則が発効すると、企業や銀行は、暗号資産を貸借対照表に「時価で」計上し、資産価値をより適切に反映できるようになります。
時価計上できるようになることで、企業や銀行にとって暗号資産を保有することへのハードルは下がり、中でも銀行による暗号資産の保有量が増えることで、暗号資産の既存金融における有用性(暗号資産を担保にした借入等)を飛躍的に高めることが期待されています。
一方で、2025年以降に徐々に実運用化されていくと見られる「バーゼルⅢ(銀行に対する国際統一的規制)」では、暗号資産に対して最大1,250%のリスク・ウェイトが課されるほか、昨年12月には、ステーブルコインが規制上の優遇措置を受けるための基準を厳格化する追加提案もなされています。
自己資本比率を気にしなければならない銀行にとっては、劣後債や資本性証券の150%、投機的非上場株式の400%等と比較した際に、暗号資産は特別な理由がなければ保有を敬遠してしまう可能性があるアセットとなる、という構造については意識しておいた方がよいでしょう(もちろん自己資本比率に余裕のある銀行にとって暗号資産のパフォーマンスが魅力的に映る可能性は存在します)。
おわりに
今回のレポートは以上となります。SBI VCトレードでは、各ディーラーが暗号資産のニューストピックをとりまとめた週間レポートを発行しています(あたらしい経済のサイトで読むことができます)。直近の暗号資産市場を振り返るのに最適ですので、ぜひご覧になってみてください。非常に長いレポートとなってしまいましたが、ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。
備考:Hashdexの現物ETF(DEFI)について
各種報道やデータサイトを見ていて「承認されたのは11件なのに資金流入出や出来高のデータが10社しか載っていないのはなぜ?」と疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。
実は、承認自体のインパクトが大きかったためか、あまり話題になっていませんが、本稿執筆時点(2024年1月25日)で、実際に取引が行われているのは、承認された11件のETFのうちHashdexによるETFを除く10件のみとなっています。
これは、証券取引所側の申請はSECに許可されているものの、先物ETFを現物ETFに転換するためのHashdex側の登録届出書が未発効であるという事情によるものです。
先物・現物を合わせたVettaFiのビットコインETFデータ(2024年1月25日時点)を参照すると、ビットコインETF全体でHashdexの先物ETF(DEFI)が占める運用資産残高の割合は約0.05%と非常に小さくなっています。今後取引が開始される可能性が高いこと自体はポジティブなニュースであり、歓迎すべき内容ですが、ETFファンダメンタルズを考える上で短期的には注意を払いすぎる必要はないと考えます。
このコラム/レポートについて
国内の暗号資産(仮想通貨)取引所「SBI VCトレード」を運営する、SBI VCトレード株式会社。この記事は、同社の市場オペレーション部 清水健登氏による寄稿コラム/レポート記事です。
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<本記事について>
本記事は一般的な情報の提供のみを目的としたものであり、いかなる暗号資産、有価証券等の取得を勧誘するものではありません。また、株式会社幻冬舎及びSBI VCトレード株式会社による投資助言を目的としたものではありません。また株式会社幻冬舎及びSBI VCトレード株式会社が暗号資産の価値を保証するものでもありません。暗号資産投資やステーキングにはリスクが伴います。投資やステーキングを行う際はリスクを了承の上、利用者ご自身の判断で行ってください。
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Source: https://www.neweconomy.jp/features/sbitips/367436